宅配クライシスから2年 「ギグワーク」が輸送網救う

「こんにちは、アマゾンです」。10月28日朝、デニム地のつなぎの作業着に腕を通した永田浩は、名古屋市内の住宅街にあるマンションのインターホンを鳴らした。

ネット通販大手のアマゾンジャパン(東京・目黒)は8月、個人の運送事業者に配送を委託する「アマゾンフレックス」を首都圏に続いて名古屋で始めた。その直前に永田は10年ほど勤めた工場を辞め、40万円で中古の軽バンを買ってフリーのドライバーになった。

1日8時間の配達で収入は約1万5千円。月収40万円を目標に、スマートフォンのアプリから自分でシフトを組む。月4回ほど自宅のある静岡県磐田市から名古屋へ通い、インターネットカフェや車中で寝泊まりする。空いた時間にネットで単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」だ。

荷台はいつも約70個のアマゾンの段ボールでいっぱいだ。永田は「アマゾンでモノを買う人がいる限り無職にはならない」と笑う。アマゾンは永田のような個人事業主を活用した輸送を宮城県や北海道でも始めた。

ネット通販の巨象が、輸送の担い手を大手運送会社から個人に切り替える要因は通販そのものの利用の拡大だ。遅配が各地で続出するなど「宅配クライシス」があらわになった2017年、配送が追いつかなくなったヤマト運輸が4割超の値上げを突きつけた。

ドライバーの負荷の緩和へヤマトは取り扱う荷物数を制限し、当日配送から撤退した。それでも便利な通販の市場は伸び、輸送量は減らない。18年度の宅配便荷物数は43億701万個と、前の年度を1.3%上回った。過去最高の水準が続く。

人手不足も解消しない。日本郵便は都内で平均を上回る時給1200~1300円で配達員の募集をかける。年末は荷物が増えるが「ここ数年、人が集まらない状況は変わらない」(幹部)。その隙間を埋めるのがギグワーカーだ。特に繁忙期は輸送量に応じ柔軟に運び手を増やせるなど、運送業界には好都合だ。

個人を働きやすくする環境も整ってきた。軽自動車で都内の荷物を運ぶ青山和正は、仕事の合間にスマホに次々と表示される輸送依頼のチェックを欠かさない。

青山が1年前から利用を始めたのは物流スタートアップ、CBクラウド(東京・千代田)が展開するサービス「PickGo(ピックゴー)」。個人の軽貨物ドライバーと荷主を仲介する。

登録するドライバーは1万5千人を超え、毎月500人程度のペースで増えている。青山は「好きなときに仕事ができるのがいい」と明快だ。

神戸市北区にある神戸新聞の販売店。午後7時ごろ、配達員がバイクの荷台に積み込んだのは新聞ではなくネット通販大手の段ボールだ。夕刊を配り終えた後の副業として、宅配大手から委託を受けた荷物を配る。

「代金引換ですよ」。なじみの新聞配達員が宅配便を手渡す姿に驚く地域住民もいる。販売店主の脇水均は「新聞配達と宅配便は共存できる。宅配危機はチャンスになった」と迷いはない。

販売店を宅配便の輸送網に組み込んだのがスタートアップのラストワンマイルソリューション(東京・中央)。同社が宅配大手からまず荷物を引き受け、区域に応じ販売店に割り振る。社長の近藤正幸は「これほど地域を知り尽くした配送インフラはない」とし、5年以内に配達員1万人の確保を目指す。

人手不足の救世主になったギグワーカーだが、仕事が常にある保証はない。原則として雇用保険も適用されず、無収入のリスクと隣り合わせだ。

7月の雨の日、都内で食事の配送中だった尾崎浩二は、運転していた原動機付き自転車がスリップし転倒。右肘の骨を折った。3カ月はまったく働けず、毎月25万円ほどあった収入がゼロになった。補償もない。尾崎は「ギグワーカーとして働く怖さを実感した」と振り返る。

飲食店の宅配代行サービス「ウーバーイーツ」の配達員は10月、事故の補償や報酬を決める基準の透明性などを求め、労働組合を立ち上げた。尾崎も自身の経験から、組織化に協力した。ギグワーカーを働き手として保護する仕組みは未整備のままだ。(敬称略)(日本経済新聞)

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