ギグエコノミーが変える労働市場

インターネット上で労働者と雇用主をマッチングさせるプラットフォームが、国境を超えて急拡大している。この「ヒューマンクラウド」と呼ばれるギグエコノミーは、途上国のスキルある人々に雇用をもたらすなどの利点がある。しかし、労働力の供給過剰、雇用条件の不安定化といった問題もあり、制度構築に向けた取り組みが必要不可欠だ。

世界的に自国中心主義がはびこる中で、多くの政治家が国境を越えようとする「よそ者」を食い止めようとしている。ここ数十年間、経済のグローバル化は止められない流れと見なされていた。それなのに今、多くの人が「脱グローバル化」などという言葉を口にするようになってしまった。

しかし、国境の壁やコンテナ船で運ばれてくる品物だけに注目していると、政治家のコントロールの及ばないところで起きている、目に見えないもう一つの重要な動きを見過ごしてしまうだろう。ギグエコノミーと呼ばれる、インターネット上で労働者と雇用主をマッチングさせる市場がグローバルに拡大していることだ。いい意味でも悪い意味でも、ギグエコノミーはグローバリズムの歴史の中で、最も新しい形であるといえよう。

労働力が入札の対象に

ギグエコノミーについて考える時、ほとんどの人は配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズや、英デリバリーサービスのデリバルーといった企業をまず思い浮かべるだろう。これらの企業はスマートフォンのアプリを通じて、依頼主と、彼らの近くにいて運転や宅配などの作業を提供できる労働者を結びつける。彼らが脚光を浴びる理由は容易に理解できる。その影響が目に見えやすいからだ。これらの企業が伝統的な雇用関係に大きな波紋を投げかけたことは、想像に難くない。

しかし今、このような形のギグエコノミーとは異なる、遠隔地での仕事に特化したプラットフォームが出来上がりつつある。

仕組みはこうだ。まず、雇う企業は委託したい業務、雇われる個人は自分のスキルを、内容ごとに分けていく。データ入力から翻訳、プログラミング、コピーライトというふうに。こうして細かく分けられた仕事がアップワークやフリーランサー、フィーバーといった、ギグエコノミーの担い手でもある企業のサイトに掲示される。自分が求める条件に合致すれば「入札」となる。

このやり方は、米オークションサイト、イーベイの仕組みを連想してもらえばいいだろう。だが、入札の対象となるのは品物ではなく人間の労働力だ。「ヒューマンクラウド」とも呼ばれるこの種のギグエコノミーは今、急速な成長を遂げている。同分野最大のプラットフォームで、カリフォルニアを本拠とするアップワークは今月、ナスダック市場に上場した。時価総額は19億ドル(約2150億円)に上る。

先進国の多くの人々がこれらのサイトを通じて仕事を見つけているが、生活費の安い途上国の人々が同様の方法でかなりの量の仕事を見つけていると聞いて、驚く人はいないだろう。アップワークが米証券取引委員会に提出した目論見書に記されたデータによれば、労働者がアップワークで仕事を得た際に支払う手数料収入のうち、約20%は米国からのものだが、約30%がインドとフィリピン、残りが「その他の国」からとなっている。

ヒューマンクラウドの利点は多い。こうした仕組みを通じ、途上国の才能ある人々が、彼らのスキルを求める世界的な需要にアクセスする機会を得られるからだ。地元市場だと彼らのスキルに対するニーズが限定的な場合も少なくない。

経済的に豊かな国の貧しい地域に住む人々についても、同様のことが言えよう。スキルを持つ人々と雇用主をマッチングする仕組みがなければ埋もれてしまっていたかもしれない人間の潜在的な能力が、ITの力で解き放たれる。

交通インフラの整備が遅れ通勤しにくい国においては、在宅での仕事が可能となる。ただし、インターネットが通じていればの話だが。

今年、英オックスフォード大学の学者が、東南アジアとサハラ以南のアフリカに住む679人のクラウドワーカーを対象に実施した調査では、多くの人が仕事は刺激的で変化に富むと回答していた。クラウドで得られる自由を楽しんでいるようだった。

貧しい国に仕事が流れる

しかしながらリスクもある。最も大きいのは、あらゆる種類のグローバル化につきまとう弊害でもあるが、豊かな国の労働者が貧しい国の労働者に職を奪われかねないことだ。1970年代から80年代にかけてメーカーが先進国からアジア地域に生産拠点を移し始めた時、先進国の工場では不安が高まった。次に職を失うのは自分かもしれないと多くの人が心配した。

ヒューマンクラウドでは、競争がより露骨なものとなる。クラウドワーカーは、オックスフォードの学者らに労働力は供給過剰状態にあると語った。

これは、世界と簡単につながるようになったことが関係している。あるナイジェリア人労働者は「求人募集が掲示された瞬間、応募者が50人くらい集まった」と語った。また別の労働者は「私がやっているような仕事をもっと安い賃金でできる人は、世界に10万人は確実にいるだろう」と話す。

また、クラウドワーカーは長時間労働になりがちで、時差の都合上徹夜になることも少なくない点が指摘されている。フリーランスで仕事をしている人々は、雇用が守られていない。政府は、こうした人々の寝室にいる時間の作業を含めたすべての経済活動から、税金を徴収するのに苦労するだろう。

独最大の労働組合である金属産業労組(IGメタル)やスウェーデンのユニオネンなど、世界で最も進んだ労働組合の一部は、このグローバル化の新たな形態は、雇用機会を創出する一方、脅威にもなり得ると警鐘を鳴らす。

こうした企業の労働組合は、ユーザーが様々なプラットフォームの労働条件を比較できるようにサイトを立ち上げ、データの透明性、各地域の最低賃金の順守、紛争解決の手順を改善するよう促している。

政策当局も、まだ揺籃期にあるこの労働形態の新たな世界の将来像を形作るために介入できる段階にある。最も危険なのは、グローバル化の波がもたらす影響への対処に手間取るばかりで、次の波が押し寄せるのに気づかないことだ。

 

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