蔓延する不完全労働 インドネシア、「ギグエコノミー」の功罪

50代のヘル・シシャンディトさんは、インターネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギグエコノミー」で働く典型的なミレニアルとは異なる。元建設作業員のヘルさんは、インドネシア西ジャワ州の州都バンドンで、人気の配車サービス「グラブ」の運転手として働く。柔軟に働ける点は気に入っているが収入は40%減った。「建設会社では固定給だったので安定性があった。だが今は全て自分次第だ」と話す。

 インドネシアではギグエコノミーが拡大しているが、長期的に見てこの経済形態が同国の多くの労働者、または経済全体にとって絶対的に良いことなのかどうかは議論を呼んでいる。インターネット接続環境の整備や電子商取引の普及で、労働力が完全に活用されない「不完全就労者」が増えているからだ。

蔓延する不完全労働

不完全就労は、デジタル産業の発展で労働者がフルタイムからパートタイムや業務委託としての就労に転換され、世界中で蔓延(まんえん)している。東南アジア最大の経済国で世界第4位の労働人口を持つインドネシアにおいてはことさら顕著だ。

1万7000の島々からなるこの群島国家では、今や1億3000万人が主に携帯端末を通じてインターネットに接続している。10年前の同国のインターネット人口は約200万人だった。

公式統計によれば、同国の労働人口1億2700万人のうち、労働時間が週35時間に満たない不完全就労者は約3分の1に及ぶ。同国の不完全就労率が30%なのに対し、フィリピンは17%、オーストラリアは8.5%だ。

また、7500万人近くのインドネシア人は非公式労働者に分類され、小規模事業者や屋台の行商人、家事使用人など単発やパートタイムの仕事に従事する労働者がこれに該当する。労働人口のほぼ60%を占める彼らの多くは労働法が適用されない産業に身を置き、納税していない。

 明るい面に目を向ければ、デジタル産業の台頭は新たな雇用を創出し、同国一般庶民の生活向上に役立っている。米コンサルタント大手マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、インドネシアのデジタル化が順調に進めば、今後10年間で年間1200億ドル(約13兆4500億円)の国内総生産(GDP)押し上げ効果が見込めるという。

スマートフォンの普及台数が1億台にも上るインドネシアでは、シェアリングエコノミーが国民の日常生活を変化させている。

ジャカルタに住むアディティア・ネルワンさん夫婦はあるとき、ガレージに子猫を残したまま家を留守にした。餌をあげるのを忘れたことに気付いた彼らは、スマホアプリ「ゴージェック」を使ってバイクタクシー運転手に魚の切り身を買ってきてもらい、子猫の元に届けてもらった。同アプリでは配車サービスの他に食事の宅配から掃除、ヘッドマッサージに至るあらゆるサービスが展開されている。

インドネシア大学経済経営学部の研究者は、ゴージェックは契約ドライバーの給与を通じて同国GDPに年間8兆2000億ルピア(約602億6000万円)の貢献をしていると推定する。同アプリの国内ダウンロード数は6000万件を突破した。

低賃金化で消費抑制

 だがそこには、低賃金化や消費抑制、正規雇用に比べて極めて弱い雇用保障という代償が伴う。

同国では失業率が2月に5.1%まで低下し、20年ぶりの低水準となったが、国民の労働時間は減り、個人消費も落ち込んでいる。個人消費の伸び率は約5%にとどまり、16年には年率11%以上の伸びを見せていた小売売上高も、今年は3.6%増と低迷している。

「この問題を解決できなければ、今後のインドネシア経済の成長の可能性を抑制することになる」と、国営マンディリ銀行のエコノミスト、アンドリー・アズモロ氏は話す。「失業率の低下は消費者心理を押し上げて小売業の伸びに寄与するはずだが、それは起こっていない」と語り、家計収入の減少が背景にあると指摘する。

同国は年約5%の経済成長を続けているが、これは過去の平均を下回り、ジョコ大統領が目指す7%の成長率には程遠い。政府は2018年の成長率を5.2%と予測する。

多くのインドネシア国民がフルタイムの仕事を見つけるのが困難な理由には、国内の小売業や製造業の衰退もある。これらの産業はマレーシアやタイなど近隣の競争相手の台頭に伴い、衰退の一途をたどっている。

デジタルビジネスの台頭とそれが生み出すパートタイムの仕事は、インドネシアの消費者だけでなく労働者の生活様式も変えつつある。明らかなのは、誰もが等しく恩恵を受けられるわけではないということだ。(SankeiBiz)

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