オランダに学ぶ働き方改革

「働き方改革」に取り組む日本にとって、参考になる存在といえば「ワークライフ・バランス先進国」として知られるオランダだ。フルタイムとパートタイムの待遇格差是正や労働時間の短縮実現など、日本が抱える諸課題を解決してきたオランダだが、事ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったという。かつて「オランダ病」と揶揄された経済の窮状を建て直していったプロセスには、オランダという国を特徴づける“ある文化”が大きく影響していたという。果たしてそれはどのようなものだったのか? オランダ経済に詳しい長坂寿久氏に聞いた。

 

パートタイム労働で
人は自由になる

長坂 オランダはいま、「パートタイム経済の国」と言われるほどパートタイム労働者の比率が高く、労働者1人あたりの年間労働時間も短いんです。しかしこれ、不思議だと思いませんか? 政労使三者間で話し合いをしたというのに。

武田 そうですね、労働組合というのはパートタイム労働者をフルタイムに変えていくことを推し進めているのかと思っていました。

長坂 世界の多くの労働組合はそうです。でも、オランダの労働組合では90年代に入って組合員に対して調査を行い、結果としてフルタイム労働者の中に労働時間短縮を希望する人が増えていること、パートタイム労働者はパートタイムのままもう少し長時間の労働を求めていること、がわかったんです。

パートタイム労働者たちは、フルタイム労働者になれないからパートタイムで働いているのではなく、自ら望んでいたんですね。

オランダ文化の1つは実にプラティカル、実際的という点にあります。経営者側は労働の柔軟性を求めて、パートタイム労働の促進を求めていました。そこで労働組合側は「均等待遇」を条件にパートタイム労働の促進に合意する旨提案し、話し合いを続け、フルタイムとパートタイムで均等待遇をするという労使合意に至りました。

労組、企業、政府の三者が
痛み分けをして「働き方」を改革

武田 それは、賃金格差をなくすといったことでしょうか。

長坂 賃金格差の是正だけでなく、社会保障や雇用保障の面でも、フルタイムと変わらない待遇にしたのです。労働組合はそれによって賃上げ抑制に協力する。企業は雇用を保障する。そして政府は、財政支出を抑制して所得減税を実行する。

武田 三者が痛み分けをしたわけですね。

長坂 「合意」の極意とは、自分の主張だけを通すのではなくて、お互いが譲歩し合うということです。

武田 なるほど、いったんはみんなが損し合うけれど、そのことによって最終的には三者の利益の総和が高まり、ひいては自分の利益も引き上がるということですね。

日本でも働き方改革に関する議論が進んでいますが、政も労も使も「総和としての利益のために、自分も痛みを引き受けよう」という姿勢にはなかなかなりません。

長坂 「オランダの奇跡」は、全員が譲歩することによって達成されました。

制度的には、労働時間差差別を禁止する法律を1996年に導入したのを皮切りに、2001年には働く時間の変更申請を保障する法律や、妊娠・出産休暇、託児所などの制度が急速に整備されていきます。労使が合意した内容を、政府が法律によってオーソライズしたわけです。

法的措置を明示的に導入し、実態としてもフルタイムとパートタイムで差別がなくなってきた国というのは、世界でもオランダが初だと考えられます。その結果、オランダの主婦たちがどんどん労働市場に入っていった。でもパートタイムなので、他の国に比べて労働コストの上昇を抑えることができました。

武田 企業としては、賃金上昇を抑制することを通して多くの人材を雇うことができたわけですね。

長坂 その結果この国は、労働の柔軟性を高めることにも成功しました。と同時に新しい働き方を獲得していきました。それまでは夫婦どちらかだけがフルタイムで稼いでいたため1.0だった家計所得が、もう片方がパートタイムで働きに出るようになったことで1.5になりました。この「1.5」というのがポイントです。

アメリカの共稼ぎ家庭では、妻も夫も同じ勤務時間と所得で2.0を目指すのが主流です。でも、オランダは1.5でいいと考えた。残りの0.5は家族と過ごす時間や自由に使える時間にしたいと思ったんです。

武田 ご著書の『オランダモデル』に、オランダは「夫が働き、妻は家事をする」という保守的な価値観が根強いとありましたね。そのため、保育所などの育児のための家庭外サービスがあまり充実していない、と。

それもあって、女性は男性と同じようにフルタイムで働くよりも、パートタイムで安定して働ける新しい雇用制度の導入を求めたのでしょうか。

長坂 そうなのです。ワークライフ・バランスの達成へ向けて、その第1弾がこの均等待遇によるパートタイム労働の促進でした。2.0までいかなくとも世帯所得が1.5に増えれば、それだけ消費が増えて、経済がよくなっていく。パートタイムでの雇用が増えたので失業率も下がる。そうしてオランダは、経済成長率がヨーロッパの中で最も高い国になったのです。

しかも、夫が1.0、妻が0.5という働き方だけでなく、夫婦共に0.75ずつという働き方も普及してきています。

この「パートタイム革命」により、オランダの人々は働き方の自由を得ることになりました。オランダのパートタイムというのは、基本的に常勤雇用契約で、雇用や収入の不安定さはありません。日本で言うところの正規雇用者で、派遣や臨時雇用とは違います。

武田 日本のパートタイム労働者とはずいぶんイメージが違いますね。日本では、「パート」といえば短時間労働で非正規の人というイメージが強いと思います。

高等教育を受けた人ほど
パートタイム志向が強い

長坂 そうですよね。日本ではどうしても「正社員になれないから仕方なくパートで働いているんだろうな」、あるいは「アルバイト感覚の働き方」などと思われがちです。

でも法律的に差別がなくなると、パートタイム労働は自分自身の選択ということになる。「家族との時間をもっと過ごしたいから」「週3で働き、それ以外の時間は自分のやりたいことに使いたいから」など、主体的に時間の使い方を選べるようになります。

おもしろいのは、高等教育を受けた人ほどパートタイム志向が強いという現象が見られることです。

私の知っているオランダの博物館のキュレーターはほとんどがパートタイマーで、空いた時間は自分がやりたい展覧会を世界の博物館に提案することに充てたりして、自分のキャリアを拡げるために使っています。他にも、本業が警察署の高官の秘書で、休みの日には貿易商を営んでいるという女性も知っています。(DIAMOND ONLINE)

 

 

ヨーロッパの西部にあるオランダの国土面積は、およそ4万平方キロメートル。 ほとんどの土地が海抜200メートル以下で、その4分の1が海面より低く、 干拓地(かんたくち)となっています。干拓地とは、浅い海や湖などの水をぬいて、 人工的に作った土地のことです。有名なオランダの原風景ともいうべき風車は、その干拓地から水をくみ上げて排水(はいすい) するために使われていました。重機がない時代に作られた海に延々と続く堤防は圧巻であり、この国の不撓不屈の精神を垣間見ることができます。

 

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