会社に縛られる人生、まだ続けますか?

現代社会の働き方を、終身雇用の正社員から無職までずらりと並べたとき、ギグ・エコノミーは、そのふたつに挟まれたさまざまな労働形態を幅広く含む概念です。コンサルティングや業務請負、パートやアルバイト、派遣労働、フリーランス、自営業、副業のほか、アップワークやタスクラビットといったオンラインプラットフォームを介したオンデマンド労働などが当てはまります。

最終列車はもう発車してしまった

ギグ・エコノミーはまだ発展の初期段階ですが、すでに世の中の働き方を大きく変えようとしています。ひとつ前の世代までは、正社員としてフルタイムの職に就き、定年まで同じ会社に勤めあげるか、転職してもせいぜい1回というコースが当たり前でした。安定した昇給、手厚い福利厚生、長期勤続の末にもらえる退職金。これらを期待して人生の見通しを立てることが、今引退を迎えている世代までは可能だったのです。そんな敷かれたレールの上を走っていればよかった出世の道は、これからはきわめて狭い道になるでしょう。労働者を取り巻く環境はたった一世代のうちにがらりと変わり、安全・快適・着実に働ける定職をたっぷりと積み込んだ最終列車はもう発車してしまいました。

わたしはバブソン大学のMBA過程で講座をもっていますが、教え子がMBAの取得後に足を踏み入れようとしている仕事の世界は、昔とはまったく様子が異なります。彼らはひとつの定職に収まろうとは考えておらず、およそ3~5年で転職を繰り返すプランを描いています。彼らは、収入が安定して増えることは想定していません。賃金の伸びは頭打ちになっているし、独立すれば高収入がねらえる一方で逆に収入が減ることもありえるからです。収入が多いに越したことはありませんが、今日の労働者は柔軟性や自主性、働く目的や意義との一貫性などを重視し、これらの要素がそろっている仕事ができるなら、収入がいくらか減ってもかまわないと考える傾向が強くあります。

また、現在の労働者は「ひとりの従業員にひとつの職務」という伝統的な就業モデルの融通の利かなさに不満を抱くようになってきています。ギャラップ社が2014年にアメリカの従業員を対象に実施した調査によれば、自分の仕事にやりがいや愛着を感じると答えた割合は3分の1にも満たないものでした。別の調査では、アメリカ人の過半数が今の仕事に満足していない状況が10年も続いているという結果も出ています。それに対して、組織に雇われていない独立した就業者は仕事に満足してやりがいも感じている場合が多いということが複数の調査で明らかになっています。彼らはフルタイム従業員にはない自主性・柔軟性・裁量の大きさを重要視しており、その多くが高い収入を得ているのです。

こうした変化にともなって、キャリア構築やライフプランの考え方は様変わりしていくでしょう。大学を出て就職し、結婚して家を買い、子供が独り立ちするのを見届けて引退するという昔ながらの人生すごろくは今でも不可能ではありませんが、定職・安定収入・定期昇給が支えてきた強固な足場が崩れゆくなか、成し遂げるのがどんどん難しくなってきています。ギグ・エコノミーなら、一人ひとりに合った見通しと道筋を描くチャンスが広がります。ギグ・エコノミーに参加する人々が増えていくにしたがって、世の中の働き方は言うに及ばず、生き方までもが変わると考えられるからです。

ギグ・エコノミーが拡大している理由

ギグ・エコノミーが拡大している背景には、ここしばらく続いているふたつのトレンドがあります。ひとつはフルタイムの仕事が減っていること、もうひとつは多くの企業でフルタイムの従業員を敬遠するようになったことです。

アメリカの民間部門における雇用の増加率はかつて2~3パーセントを推移していましたが、ITバブルが弾けた2000年に2パーセントを切り、2008年には1パーセントを割り込んで2015年まで歴史的な低水準が続いています。

雇用創出がこれほど減速している原因のひとつに、新興企業の勢いがなくなってきたことがあります。雇用創出にもっとも寄与しているのは小規模企業だと広く信じられていますが、正確には新興企業が新しい雇用のほとんどを生み出しています。しかし、新興企業が全企業に占める割合は1970年代に16パーセントだったのが2011年には8パーセントに半減しているのです。

しかも、新興企業が生み出す雇用も減っており、かつては年間300万人の雇用を創出していましたが、それが最近では200万人あまりにまで落ち込んでいます。わたしがシニア・フェローとして所属しているユーイング・マリオン・カウフマン財団は、この現象を「雇用創出の長期的流出」と呼び、「創業数と初期従業員数がともに減っているうえに規模拡大が遅くなっているため、アメリカの労働市場に発生する雇用機会はとめどなく減少している」と指摘しています。ここに追い打ちをかけるように、既存企業は一時解雇(レイオフ)や事業規模縮小、組織再編などによりフルタイムの仕事を減らしています。また、費用の削減や柔軟性・効率性の向上を目指し、今まではフルタイムだった仕事を細かいプロジェクトや作業に分割して自動化や外部委託を進めてもいます。

ギグ・エコノミーは職(ジョブ)中心の労働市場を働き(ワーク)中心の労働市場に変え、働き方に革命を起こそうとしています。フルタイム雇用で働くフルタイム従業員という紋切り型を脱した、新しい労働モデルを企業と労働者にもたらしてくれるでしょう。高いスキルを持つ働き手にとって、ギグ・エコノミーはいいジョブからとてもいいワークに乗り換えるチャンスとなります。伝統的なバッドジョブに就いている低スキルの働き手は、悪いジョブよりもましなワークを得る可能性が広がるでしょう。ジョブという型からワークという中身を取り出すことで、従来の会社勤めで得られる以上の自律性・柔軟性・選択権が実現できるからです。

ギグ・エコノミーは働き方だけでなく、生き方にも変革を起こそうとしています。仕事も収入も変わるのが当たり前となる経済に、これまでのような高固定費・高借入のライフスタイルはなじまなくなります。また、働きながら休みを取り、生涯を通じて仕事と余暇のバランスを取ることができるようになるので、40年ものあいだ猛烈に働き、そのあと引退するという人生設計にこだわる必要もありません。

ギグ・エコノミーで言う“成功”とは、職を見つけることではなくなります。成功とは、方向性が定まりバランスの取れた人生を送ること、そして職業生活と私生活における目標に近づくための充実した仕事を見つけることなのです。(日経ビジネス)

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