ギグエコノミー曲がり角、人材確保難しく

ジェイソン・ヌールザイ氏は2015年以降、「ギグエコノミー」(ネットを通じた単発請負型の非正規雇用形態)を支える新興企業8社のさまざまなサービス事業で働いてきた。それはポストメイツ、ドアダッシュ、グラブハブ(以上、宅配サービス)、アマゾン・フレックス(宅配請負ドライバー)、ウーバー・テクノロジーズ、リフト(以上、配車サービス)、フィールド・エージェント(市場調査)、デリブ(クラウドソーシング型宅配)だ。

 「私が一番気に入っているのは、仕事のスケジュールを自由に決められること、そして所定時間内に全力を尽くせば、大半の仕事が良い報酬をくれることだ」。ヌールザイ氏はこう語る。最悪だったのは料理宅配サービス「ウーバー・イーツ」で、賃金もチップの取り分も最も少なかったという。

 同氏はポストメイツとフィールド・エージェントでまだアルバイトを続けているが、人材派遣会社を通じてようやくフルタイムの仕事に就いた。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)による排ガス不正問題の一環でリコール(回収・無償修理)対象となったフォルクスワーゲンとアウディのディーゼル車を点検する仕事だ。

ヌールザイ氏がギグエコノミーに関わった経験は――ギャラップなどの調査に基づくと――2つの意味で典型的だ。第一に、多くの職を転々とし、1つの仕事を数カ月以上続けることはなかった。第二に、同氏はこれらをフルタイムの仕事とは考えず、定職に就いた今も収入を補うために利用していることだ。

 世界的な金融危機によって人々は職を失い、その結果、新しいことを試す余地ができた。例えば、携帯アプリを通じて一時的な派遣労働を請け負うといったことだ。こうした役割を担う人々は法的には正規の従業員ではない。そのため理論上はいつどのように働くかという柔軟性が高まるのだが、一方で従来型の福利厚生を受けられず、給与税も自ら払わなくてはいけない。

離職を食い止めよ

 ベンチャー投資家は、従来の契約ベースの雇用を「ギグ」型に切り替えた企業に対し、少なくとも当初は記録的な資金をつぎ込むことをいとわなかった。ウーバーのように成長を最優先する企業はこうしたキャッシュを活用し、収入に先行して投資を拡大した。

 だがウーバー創業から10年をへた今、これらの企業は自らの立場が大きく変化したことを実感している。赤字を大目に見る投資家の姿勢も、人員確保の容易さもかつてとは異なっているのだ。新規株式公開(IPO)の時期には、大手企業でも赤字続きの経営とひっ迫する労働市場(失業率は50年ぶりの水準に低下)の板挟みで苦しむ。リフトは既に株式を公開し、ウーバーとポストメイツはIPO申請手続きを開始した。食料品配達サービス「インスタカート」の最高経営責任者(CEO)は最近、IPOを視野に入れていることを認めた。

 ギグエコノミーの異様に高い離職率は、企業経営者自身も投資家も悩ませているはずだと、ファウンテンのマイカ・ローランド最高執行責任者(COO)は指摘する。同社は雇用プロセスを合理化し、ギグエコノミー企業が新しい働き手を確保する手助けをしている。

 ファウンテンの主業務は企業の人材探しであり、高い離職率の恩恵に浴している面もあるが、それはあくまで顧客企業が事業を続けていればの話だ。ローランド氏が懸念するのは、離職率が高すぎて一部の企業が持続不可能になることだ。

 「私が驚いたのは、大都市でもないのに、毎月何千人もの求職者に対応している会社があることだ」と同氏は話す。「『あなたがたはこのような役割に興味がある、または喜んで引き受ける人々の労働市場をあっという間に使い果たすかもしれないと考えたことがあるか?』。私がこう尋ねると、彼らは答えられなかった」

 ウーバーはIPO目論見書の中で、ドライバーの離職防止策には触れなかったが、2018年7-9月期の離職率(年率換算)がピーク付近の水準にあったと述べている。

 サービス分野では離職率が高いのが普通だ。例えば、米国のファストフード業界では2017年の離職率が年率150%に達した。つまり、スタッフ10人の店舗であれば、1年で15人が辞めたことになる。ローランド氏の推測では、ファウンテンの顧客企業の一部では離職率が年率500%に達している可能性があるという。

数百万人の米国人がウーバーやインスタカートのような企業の仕事を手掛ける一方で、どのくらいの人が離職せずにいるのか、あるいは採算割れが続くこれらの企業が彼らの関心を引き続けるためにどのくらい報酬を払うべきなのかは明確でない。

 アダム・プライス氏が最高ロジスティクス責任者を務める料理宅配サービス「ウエーター(Waitr)」では、離職を食い止める対策に乗り出した。同社はドライバーをフルタイム従業員として雇うことで、離職率を最小限に抑え、新たな人員の採用コストを削減している。個々の配達で得られる収益は限られており、他のコストがかさまないようにすることが重要だとプライス氏は話す。「場合によっては、新人研修にかかった費用を取り戻せないという本末転倒の状況になりかねない」

 ウーバーやリフトなどは、労働環境を改善し、賃金を引き上げることで対応するはずとの見方もあるだろう。だが上場に向けた圧力が両社を逆の方向に押しやっている。労働者は何年も前から賃金水準や労働環境に抗議しており、ロサンゼルスやサンフランシスコなど主要都市では最近、抗議デモが活発化している。

アプリで乗客を探すドライバーのアキノ氏 Photo: Jenn Ackerman for The Wall Street Journal

 ギルバート・アキノ氏はリフトの創業間もない2013年にドライバーを始めたが、最近辞めたという。恐らく永久に戻らないと話し、賃金水準の崩壊を理由に挙げた。「私が仕事を始めた頃は1マイル当たり約2.5ドルだった。今ロサンゼルスでは80セント位だと思う。ここミネソタ州では70セントだ」

 リフトの広報担当者はこう述べた。「当社はドライバーの就労経験をいかに改善できるかについて常に彼らの話に耳を傾けている。最近導入した『リフト・ドライバー・サービス』は、ドライバーの経費を減らし、時間を最大化することが目的だ」

ウーバーは現在IPO申請中のため沈黙を守っているが、「ウーバー・プロ」と呼ばれる高評価ドライバー向けの優遇制度を米国30都市に拡大したばかりだ。対象ドライバーは1マイル当たりの賃金が引き上げられ、アリゾナ州立大学と提携した無料のオンライン授業を受講できる。

 また、リフトもウーバーもIPOに際し、長期契約ドライバーに対する株式や現金のボーナスを支給するという。

自動運転が突破口?

 ギグエコノミーは2008年の経済危機の産物という面が大きい。こう指摘するのは、新しい雇用形態で働く労働者の日常的な苦闘を描いた「Gigged(原題)」の著者サラ・ケスラー氏だ。今や米国の労働市場はひっ迫し、当時はこの市場に資金をあふれさせたベンチャー投資企業は出口を模索している。新興企業の急成長を可能にした要因はもはや存在しないと同氏は言う。

 これらの企業の多くは経営破綻に至った。住宅清掃サービスの新興企業ホームジョイは倒産した際、労働者のつなぎ留めの難しさを理由に挙げた。黒字化を期待する株主の圧力に直面するケースもある。多くのアナリストが指摘するのは、黒字化のためには価格を引き上げる必要があり、さらに労働者引き留め策として賃上げする必要からも、消費者から徴収する金額を増やさざるを得ないと思われることだ。

 値上げですら単なる問題の先送りにすぎないかもしれない、とプライス氏は話す。ギグエコノミー企業の大手は今でも数十億ドルを銀行に預けている。こうした企業にとって、高い人件費を要する仕事を自動化することなしに、採算ラインに到達することは不可能ではなかろうか。もしこの話に聞き覚えがあるなら、それはウーバーのトラビス・カラニック元CEOがかつて自動運転車について語った言葉だ。その開発の先頭に立つことは、同社の存亡に関わる問題だというのだ。

 「こうした(料理宅配や配車サービスを手掛ける)企業は、赤字垂れ流しのサイクルを脱却できるよう、自動運転技術が一刻も早く実現されるのを当てにしている」

 もちろん、金融危機やそれに伴う失業率の急上昇が再び起きれば、ウーバーのドライバーは2009年と同様に魅力的に見えるだろう。だが一体誰がそれを望むだろうか。(THE WALL STREET JOURNAL


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