ギグエコノミーで広がる男女間の報酬格差

何かと融通が利かない会社勤めを辞めて、フリーランス(請負労働者)に転向する女性が増えている。だが、個人事業主となった彼女たちを待ち受けているのは、会社員時代とは異なる試練でしかない。

フリーランスの世界では、勤め人である時に比べて、報酬面での男女格差は大きく、それを是正するのも困難である可能性が高い。さらには、賃金を犠牲にしてまで手に入れたかった自分自身で働き方を選べる生活スタイルも、仕事を追い求めるなかで脅かされるという事態に直面することになる。

フリーランスに転向する女性が増加

収入増や柔軟な労働条件や就労時間を求めて、過去10年間に個人事業主としての就労形態を選ぶ女性が増えた。組織に属さない専門職や個人事業主のための英労働保護団体、IPSEによると、高いスキルを持ちフリーランスとして働くことを選択した女性の数は2008年以降、63%増加したという。

しかしながら、21世紀の労働市場とインターネットを使って単発の仕事を受発注する「ギグエコノミー」の台頭で判明したのは、フリーランスが直面する男女の報酬格差が会社員の男女賃金格差平均よりも格段に大きいという現実だ。

経済協力開発機構(OECD)によると、個人事業主の男女間での報酬格差が最も大きかったのは、米国とポーランドだった。両国とも女性が受け取る報酬は男性に比べて56%少なかった。

先進国の中で賃金格差是正への取り組みが最も進んでいるベルギーでさえ、個人事業主に関しては男女間での報酬格差は大きく、なかなかその問題を解消できずにいる。

ベルギー統計局によると、フルタイムで働く従業員の場合、男性の平均賃金は女性に比べて4.6%高い。ベルギーは世界で男女賃金格差が最も小さい国の一つだ。2000年には15.4%だった賃金格差は、企業に男女賃金格差の報告を義務付ける法律が成立・施行される直前でも7.1%にまで縮小していた。ちなみに、英国では女性の賃金の中央値は男性よりも16.4%低い。

ベルギーでは12年に導入された法律によって、従業員50人以上の企業は2年ごとに男女賃金格差の実態を報告しなければならない。英国でも17年に同様の法律が制定されたものの、データの報告が義務付けられているのは250人以上の従業員を抱える公共団体や公的機関に限られている。

情報開示義務ない環境下で格差拡大

ベルギー企業は、賃金格差の是正に向けた方針の詳細を公表することが義務付けられている。女性従業員も賃金格差の実態を調査するための調停を求めることができる。

そんなベルギーであっても、個人事業主となれば事情は異なる。16年のデータによると、フリーランスの男女報酬格差は30%となっており、10年以降この水準でほぼ横ばいに推移している。

フランデレン地方議会の議員で、ベルギー上院議員でもあるカティア・シーゲルス氏は「近代経済において我々が目にしているのは、最初の就労形態として組織に属さないフリーランスを選び、スキルや経歴、肩書などを複数持ちつつ幅広い領域で働く『スラッシュキャリア』を形成する若者が増えているという昨今の実態だ」と指摘する。

「つまり、賃金格差に関わる情報開示を義務付けられた企業で働いていないため、報酬の格差も当然ながら非常に大きなものになってしまう」と懸念する。

起業する際にも、女性は性別による差別に直面している。OECDによると、女性の起業家は男性に比べて調達できる資金額が少なく、支援も全般的に手薄だ。

OECDは17年に発表した報告書で「女性起業家は男性起業家に比べて資本が少ないことが多い。男性に比べると、自己資金や身内や知り合いからかき集めた資金に頼ることが多く、概してローンを組んだり社債発行で資金を調達したりするときにも困難を強いられる」と分析。その主因は、男女差別だと指摘している。

事態を悪化させるギグエコノミー

その結果、フリーランスで働く女性は、論文掲載誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・アントレプレナーシップ」で紹介された16年の研究調査にあるように「ガラスのおり」に閉じ込められてしまうのだ。

「米国における個人事業主の男女報酬格差」と題した同研究調査によって「男性と同等の教育を受けて同じ職業に就き、同じように仕事の経験や就労時間を重ねてきていても、女性の個人事業主の稼ぎは男性の個人事業主に比べて少ない」実態が浮き彫りになった。その上で、格差を縮小するための女性の力は限られていると結論づけている。

このような現状をさらに悪化させているのがギグエコノミーだと語るのは、カナダのトロント大学ロットマン経営大学院ジェンダー経済研究所ディレクターであるセーラ・カプラン教授だ。「ギグエコノミーの仕事の多くは法的、社会的、金銭的な保障に欠けるため、女性の助けにはならない」と指摘する。

カプラン教授は、就労時間や時間帯を自分の裁量で管理したいと願う女性に対してこう警告する。「このような(ネットで単発の仕事を受けるような)フリーランスの働き方は、本当の意味での柔軟性に欠けることが多い。長時間労働に対応できなかったり、特定の仕事を断ったりすれば、罰を受けるようなシステムになっているからだ」

オンラインのプラットフォームを使ったギグエコノミーでの就労に関する調査から、男女間の報酬格差は7%から37%と業種によってばらつきが大きいことが分かったという。

業界基準の公表で料金・報酬の透明化を

カプラン教授は「グループレベルでの保護策を講じていない場合、支払われた報酬額が性別によって差別がなかったかどうかを確認するのは難しい」と話す。事態の解決策の一つとして同教授は、政府あるいは業界団体を通じて、フリーランスが提供するサービスへの平均的な対価の公表を提案している。まだ誰も踏み込んだことのない領域であるが故、「仕事の依頼主にとっても、提示する料金が低すぎないか、十分な料金を支払っているのかの目安になるはずだ」(カプラン教授)と期待を寄せる。

45万人のフリーランスが所属する全米最大の組織「フリーランサーズ・ユニオン」の幹部、ケイトリン・ピアース氏も同意見だ。「個別に料金を設定し、常に顧客との契約交渉をしなければならない個人事業主にとって、料金の透明化のために複数の情報伝達経路をつくっておくことは不可欠だ」と語る。

ピアース氏によると、フリーランスの同志によって集められた料金水準のデータベース化や非公式料金ガイドライン作成の動きが出始めているという。「同業者間でこのような情報交換を進めるのはやりにくいこともあるかもしれないが、業界基準を理解し、いつどうやって料金を引き上げることができるかを知るためには必要だ」
(2019年10月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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